
ものづくりを街に、仲間に開放する。
コクヨが品川で描く、デジタル・ファブリケーションによる共創の『原点』。

グローバルワークプレイス事業本部
グローバルプロダクト統括本部
ものづくり開発本部
共創型オフィス事業タスクフォース
タスクフォース長
空間の提供から『プロセスへの参加』へ。
スタジオ立ち上げの真意
品川の地で働く場や学びの場を見つめてきたコクヨが、2022年に新たなものづくりの拠点として始動させた『(0,0,0)studio genten』(スタジオゲンテン)。デジタル加工機ShopBot(ショップボット)を備え、ガラス張りのオープンな空間で展開されるこのスタジオは、単なるプロトタイピングの場に留まらない、深い意義を持っています。
植田:
「もともと、このオフィス自体を“街に開く”というコンセプトで設計しており、1階と2階は誰でも入れるエリアになっています。コロナ禍を経て働き方が自由になった一方で、企業にとっては社員同士のつながりやエンゲージメント、企業カルチャーの維持が大きな課題として浮上してきました。それまでは“素敵な空間”を提供することが私たちの中心的な価値でしたが、こうしたソフト面の課題に対し、メーカーらしいやり方で貢献できないかと考えたのが始まりです」
コクヨが着目したのが、ものづくりのプロセスそのものを価値化することでした。
植田:
「今は様々な場所で『共創』という言葉を使いますが、私たちはものを一方的に提供するのではなく、作るプロセスにお客さまにも参加していただく形を目指しました。一緒に汗を流して試行錯誤することで、それまで通りすがりでしか顔を知らなかった人同士に“同じ釜の飯を食った”ような深いつながりが生まれます。このスタジオは、そうしたつながりや文化を醸成する拠点としても機能していきます」

デジタルと木工の融合が生む、
新たな提供価値とパートナーとの絆
スタジオ内に設置された大型のデジタル木材加工機ShopBot。通常は工場の裏側にあるような機械をあえて可視化することで、街ゆく人々の関心を引き、参加意欲を喚起する仕掛けになっています。スタジオ設置にあたっては、2022年に資本業務提携を行った建築系スタートアップ・VUILD(ビルド)をパートナーに迎え、コクヨとして初となるデジタル・ファブリケーション技術の事業導入へと踏み出しました。
植田:
「スタジオの名称である『ゲンテン』には二つの意味を込めています。一つは、新しいものづくりの始まり、起点としての『原点』。もう一つは、CNC加工機の刃先が示すX・Y・Z座標の『原点(0,0,0)』で、ここから面白いものを生み出そうという想いを含んでいます」
VUILDが持つノウハウや製作プラットフォームと、コクヨのオフィス空間提案力を掛け合わせることで、新たなソリューションや家具のビジネスモデル構築を目指す取り組み。そこには、自社のものづくりマインドを再燃させるという狙いもありました 。
植田:
「きっかけは、若手デザイナーたちが世界の名作椅子を自分たちなりに解釈し、ShopBotを用いて作る『贋作展』という企画でした。デザイナーは普段、図面を描くところまでは手掛けますが、最終製品を自分の手で直接作る機会は意外と少ないもの。若手が夜な夜な楽しそうに椅子を切り出し、組み立てる姿を見て、こうした“作る喜び”こそがメーカーのカルチャーに必要だと確信しました。この技術を導入することで、私たち“作り手”と顧客である“使い手”の垣根をなくし、ともに試作や検証を繰り返しながら最適な答えを導き出すことができるようになります。完成品を一方的に提供するのではなく、共につくり上げるプロセスそのものが、サービスの価値をさらに高めていくと考えています」

データが加速させる「地産地消」と「グローバル共創」
デジタル・ファブリケーションの最大の利点は、熟練の技術に頼らずとも、データさえあれば迅速かつ高精度に形にできるスピード感と柔軟性にあります 。
植田:
「例えば“地方で木材を買い、現地のShopBotで加工する”といった、データの共有だけで完結する地産地消のものづくりも可能になります。さらに、パートナーであるVUILD社ではAIを活用して言葉から家具のデータを自動生成したり、過去の設計データを蓄積して構造計算やコスト算出を瞬時に行う仕組みも開発中です。これにより、設計の初期段階で予算を見据えた調整がしやすくなり、ものづくりのハードルを劇的に下げることができます」
そうした可能性を象徴するのが、海外のデザイナーと連携したグローバルプロジェクトです。
植田:
「国際デザインコンペティションのグランプリ作品を製作・展示するという試みでした。グランプリが決まったのが9月末で、そこからデザイナーとデータをやり取りし、工場で分散してパーツを切り出し、11月頭には展示まで漕ぎ着けました。わずか2ヶ月という、これまでの常識では考えられないスピード感で製作を実現できたのは、まさにデジタルならではの強みです」
また、大規模複合開発街区「グラングリーン大阪」に設置された、全長15メートルのベンチ事例も印象的です。
植田:
「デザイナーが粘土で作った有機的な形状を3Dスキャンしてデータ化し、6000もの複雑なパーツから構成される長尺ベンチを製作しました。手作業では設計負荷が高すぎて断念せざるを得ないようなデザインも、ShopBotを使ったデジタルなものづくりならば実現することが可能です」

社内文化の変革と、社会課題へのアプローチ
スタジオの存在は、コクヨ社内のクリエイティビティにも着実な変化をもたらしています。
植田:
「家具、空間、文房具と、普段は部門が分かれて接点の少ないデザイナー同士も、この場所をベースに共同プロジェクトに取り組む機会が増えました。また、アフターファイブの時間には、社員が自宅で使うものを自由に自作することも許容しています。自分の手で試す文化を育てることで、営業やデザインなど、あらゆる部門の社員に刺激を与えています」
最近では、社内のゴミ分別問題を解決するためのプロジェクトもここから生まれました。
植田:
「ただゴミ箱を作るのではなく、ゴミを資源として意識してもらうためのデザイン展示や什器を自分たちで制作しました。アイデアをすぐに形にできる道具があることで、社内の課題解決に向けた自発的な動きが活発になっています」
さらに、この活動はサステナビリティの領域や、社会貢献の文脈にも広がっています。
植田:
「国産材の活用による森林循環の促進はもちろん、コクヨがパーツを提供しパートナーであるVUILDが中心となって行った能登復興マルシェのプロジェクトでは、金沢のこどもたちが応援メッセージを書いた椅子を製作・寄贈するという取り組みを行い、ものづくりが持つ社会的な価値提供の可能性を感じることができました」

品川から始まる、好奇心にあふれた街=Curiocityへ
植田さんは、今後の展望として“街に開く”取り組みをより一層強めていきたいと考えています。
植田:
「コクヨはリブランディングを通じて『好奇心を人生に』というコンセプトを掲げました。私たちは品川を、好奇心(Curiosity)を育む街=Curiocityにしていきたいと考えています。このエリアにはイノベーションに関心の高い企業やプレイヤーが集まっており、実行力も非常に高い。そうした皆さんと連携し、街全体の好奇心を刺激するような共創を仕掛けていきたいですね」
現在、スタジオの機材の使用については、安全面の制約から主に社員限定となっていますが、将来的には一定のスキルを持つ地域住民や学生にも開放していきたいという構想もあります。
植田:
「教育分野への展開も大きな柱です。こどもたちが地域の素材を知り、自ら形にする体験を通じて、作る前の自然理解からメンテナンスまで含めた学びを提供したい。ものづくりを通じて、人と人、人と地域、そして未来をつなぐ。品川という街を、誰もがクリエイターになれる新しい社会の『原点』にしていければと思っています」

ものづくりのプロセスを開放し、使い手とともに試行錯誤を繰り返す──。『(0,0,0)studio genten』 は品川を舞台に人々の好奇心をつなぎ、誰もがクリエイターになれる新しい社会の「原点」を築き続けていくことでしょう。



